sunshine+cloud

GOOD SWELL JOURNAL/ADD SOME MUSIC TO YOUR DAY/#43

いまに至るボブ・ディランという存在

1966年の7月、ディランはバイクの転倒事故によりウッドストックで療養という名の隠遁生活にはいった。デビューから5年間に満たない間だが、たて続けにアルバムを出してきた彼にとって、それがアクシデントであったにせよ、いまにして思えばそれは必然だったのかもしれない。彼のスタンスは音楽にとどまらずすべてのジャンルの在り方を変えるほどの影響力をもってしまったのだから。ディランといえども疲れるはずである。
66年からはじまったロニー・ホーキンスのバックバンド、ザ・ホークス(のちのザ・バンド)をしたがえてのワールド・ツアーでは1部アコースティック・ギターでの弾き語り、2部のエレクトリック・セットでの演奏になると、いまとなっては信じられないかもしれないが、フォーク音楽ファンからは必ずブーイングの嵐をあびせられた。エレクトリック・ギターを手にしたフォークの神様に堕落を見たのだろう。ホークスのドラムス、レヴォン・ヘルムはそのブーイングにいたたまれなくノイローゼ気味になり、ツアーを途中で離脱している。
マンチャスターのフリー・トレード・ホールであったが、どういうわけかロイヤル・アルバート・ホールの明記で98年に出た2枚組のライブ盤ではエレクトリック・セットと手を組んだディランにファンゆえのやり場のないブーイングが克明に記録されている。曲と曲の途中、観客席から静寂を破る<ユダ>の罵声。それにに呼応する拍手の嵐。ディランはギターをチューニングしながらクールに<お前のことなんか信じない>そしてすこし間をおいき、<お前は嘘つきだ>とやりかえしている。その言葉に呼応するロビー・ロバートソンの<でっかい音でいこうぜ>ではじまる「ライク・ア・ローリングストーン」<オレは神様なんかじゃない、ただ転がりつづける石なんだ。それだけの存在なんだ>というメッセージとエレクトリックの饗宴には脳も体も痺れてしまう。
転倒事故によりワールド・ツアーは中止になり、67年の3月から9月末の期間までディランとホークスはウッドストックで精神のリハビリをかね、発表のあてなどないセッションをやっていた。時はサイケデリック・ロック全盛の<サマー・オブ・ラブ>真っ最中にである。そのセッションの一部はホーンなどのオーバー・ダヴィングしたのち75年にボブ・ディラン&ザ・バンド名義で『ザ・ベースメント・テープス』(2枚組LP)として世に出た。が、その全貌は明らかにはならなかった。
それが昨年の11月にボブ・ディラン&ザ・バンドで『ザ・ベースメント・テープス・コンプリート』として47年の時を跨ぎ全貌が明らかになった。この<コンプリート>をどれだけのひとたちが待ち望んだことだろう。私もそのひとりなのです。
CD6枚セットのボックス・セットで全138曲。正確に言えば、同タイトルの別テイクがあるので118曲である。CD1からCD5までが時系列に並べれていCD6は聴くに耐えない音質や途中で途切れたりしたりものの集合体で、時系列からは外れているが、<コンプリート>と謳うからにはいたしかたない措置なのだろう。しかし、まだ聴いたことがないディラン自作が8曲も入っているのはなんともうれしい。
このコンプリートに並べられたものはアメリカン・トラディショナル、カントリー、ヒルビリー、アイルランド・トラッド、ブルースなど。それらの曲を俯瞰すれば、ディランがアメリカン・ミュージックの伝統に回帰し、そして、それを再構築しようとしている姿が見えてくる。それにしても、彼のアメリカン・ミュージックへの間口の広さと眼差しの深さに驚いてしまう。67年末に出た『ジョン・ウェズリー・ハーディング』からいまに至るアルバムを聴くとき、頼もしい助っ人という存在になった。それぞれのアルバムとこのコンプリートと行き来しながら自分なりの解釈の愉しみを私たちは与えられたことになる。
時系列であることから、彼らのセッションの濃度といったものがリラックスしながらも、徐々に深みを増していく様相が実にいい。同じ空間で同じ時を重ねるうちに理解を突き抜けたところで、互いの身体が呼応しあうセッション(関係性)には感涙を超えるものがあります。
ホークスはブルースやR&Bに軸をおくバンドであったが、このセッション重ねるうち、ああ、もうザ・バンドと言っていいでしょう。ロビー・ロバートソンのギターはアメリカ南部の日差し、土埃や沼といったものを内包しながら音数のすくないソリッドな音に育ってゆく。ここにロビーのサザン・ロックへの新たな解釈の試みがある。それからガース・ハドソンのオルガンのうねりグルーブをとっても、彼らが翌年出した『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』(名盤!)へ向かう彼らの道のりがうかがえる。
そんなことを考えると、このコンプリートの意味は大きい。いろんなひとたちが、いろんな思いを持つだろう。とてもたのしみだ。 音質がひどいCD6に入っている57年にドゥーワップ・グループのザ・レイズがヒットさせ、のちにハーマンズ・ハーミッツが再ヒットさせた「シルエット」のカバーはいつの日にかディランのアルバムで聴きたい。(hy)

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